不妊原因は、男女双方にあります。 原因の精査は的確な治療の第一歩です。
不妊原因は、男女双方にあります。 原因の精査は的確な治療の第一歩です。
赤ちゃんが欲しいのに、なぜ、妊娠しないのでしょうか? 背景には何か理由(原因)があるはずです。不妊検査で原因を探り、原因に応じた的確な治療を受けることが、妊娠への最短の道となります。
WHO(世界保健機関)が1996年に発表したデータによると、41%は女性側に原因があり、24%は男性側に原因があります。この数字から女性側に原因が多い印象をもちますが、24%は男女双方に原因があります。男性の24%に男女双方の24%をプラスすれば、男性側の原因は48%になります。
また、日本受精着床学会が行った不妊治療を受けている患者さんへのアンケート調査(2003年)によると、男性因子32.7%、卵巣因子20.5%、卵管因子20.4%、子宮因子17.6%、免疫因子5.2%となっています。
最近は男性の年齢と不妊率の関係もわかってきました。これまでは、加齢による卵子の老化、妊孕性の低下は、女性だけの宿命といわれてきました。しかし、男性も、精子を作る力は50歳を境に低下すること、さらに一部の男性には「35歳の壁」があり、35歳を境に造精機能が低下することもわかってきました。
こうしたことから、最近は女性と男性の不妊原因は半々、50%は男性側に原因のあるという意見も少なくありません。
通常の検査では原因が特定できない場合を、原因不明不妊といい、11%を占めています。
原因不明不妊は機能性不妊とも呼ばれますが、原因がないのではなく、現状の検査では原因は見つからないものの、何らかの原因が隠れていると考えるのが正しいのです。
研究が進むにしたがって、これまで不明とされてきた原因が徐々に解明されています。
たとえば、女性の場合、排卵卵子を卵管の中に取り込むことができない「ピックアップ障害」が、女性の原因不明不妊の大半を占めるとわかりました。
男性では、精子がもつ受精能に焦点をあてた遺伝子レベルでの研究が進み、精子が卵子に進入する際の「先体反応」がクローズアップされています。
●女性側の主な不妊原因
・排卵因子 ・卵管因子 ・子宮因子 ・頸管因子
何らかの原因で排卵が起こらない、未成熟な卵子が排卵されるなどの排卵障害をいいます。受精卵の基は卵子ですから、排卵障害は不妊の重大な原因になります。
原因のほとんどは間脳⇔下垂体⇔卵巣系のホルモン異常です。
⇒排卵を整えるホルモン剤や漢方薬で治療します。
男性ホルモンの分泌量が多すぎるために起こる排卵障害です。
⇒治療の中心は卵胞の発育を促すホルモン療法です。
排卵を抑える作用のあるプロラクチンの過剰分泌が原因です。高プロラクチン血症による排卵障害はめったにありません。
⇒主にプロラクチンの分泌過多を抑える飲み薬で治療します。
女性不妊の10%を占めるといわれています。黄体(排卵後の卵胞は黄体に変化/プロゲステロンを分泌)の働きが不十分なため、プロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌量が少ない、子宮内膜が厚くならないなどのトラブルが起こり、不妊の原因になることがあります。
⇒高温期の黄体ホルモン補充療法のほか、排卵期と高温期にHCGを注射することもあります。
*その他、黄体化非破裂卵胞(LUF)、甲状腺ホルモンや副腎皮質ホルモンの分泌異常が原因となっていることもあり、それぞれの原因に応じた治療を行います。
卵管は卵子と精子が受精する大切な場所です。卵管に狭窄(細い)や閉鎖(詰まっている)などの通過障害があると、不妊の重大な原因になります。
クラミジア感染症は卵管狭窄・閉鎖の重要な原因です。女性の場合、感染してもほとんど症状がないか、あっても軽いため、気づかないことが多く、不妊症の検査で初めて診断がついた時には、卵管性不妊となっているケースが多くあります。
子宮内膜症、虫垂炎、クラミジア感染症などにより、卵管や卵管采が周囲と癒着して通過障害が起こる場合があります。
⇒卵管の通過障害は子宮卵管造影などの卵管疎通性検査で診断がつき、同時に治療につながることがあります。
通気・通水・手術(卵管鏡下卵管形成術)で治療することもありますが、最近は体外受精を行うことが多くなっています。
卵管采は卵管の先端にあって、卵巣から排卵された卵子をピックアップして、卵管内に取り込む役割を果たしています。子宮内膜症などのために卵管采が周囲と癒着すると、このピックアップ機能が働かず、不妊の重要な原因となります。
女性の原因不明不妊の大半は卵管采のピックアップ障害といわれています。
⇒卵管采のピックアップ障害診断のため、子宮卵管造影や腹腔鏡検査が行われますが、なかなか診断がつきにくいのが実情です。治療は体外受精が第一選択肢です。
子宮は受精卵が着床し、胎児として発育する大切な器官です。子宮内膜症、子宮筋腫、子宮奇形などが着床不全の原因となることがあり、とくに子宮内膜症は不妊原因として大変重要です。
子宮内膜症は妊娠を望む20代~30代の女性に多くみられ、子宮内膜症の女性の30~50%が不妊症といわれている重大な不妊原因です。
子宮内膜に類似した組織が子宮内膜以外の場所に発生して、月経のたびに出血を繰り返す病気です。子宮腔と子宮筋層以外にできるものを子宮内膜症、子宮筋層の中にできるものを子宮腺筋症といいます。
卵巣の中に発生すると、排卵障害の原因になり、卵管やその周囲にできると、卵管の通過障害や卵管采のピックアップ障害の原因になります。
⇒ホルモン剤で排卵と月経を止めるホルモン療法や手術療法があります。ホルモン療法は治療中、妊娠できないデメリットがあります。また、子宮内膜症は月経が再開すると出血するたびに悪化します。このため、不妊治療では妊娠を最優先するために、診断後早目に体外受精を行うようになっています。
子宮の筋層に良性の腫瘍(しこり)ができる病気です。筋腫があるとわからないまま妊娠する方も多く、不妊の原因になることはさほど多くありません。しかし、できた場所や大きさによっては、精子の通過障害、受精卵の着床障害、不育症(流早産)の原因になる場合もあります。
⇒不妊の明らかな原因になっていない場合には、積極的な治療を行わず、タイミング法や人工授精で1日も早い妊娠を追求します。
生まれつき子宮の形に異常があります。子宮卵管造影で診断がつきます。種類や程度によりますが、不妊の原因になることはめったにありません。
⇒明らかに不妊や流早産の原因になっている高度な奇形の場合には、手術を行うことがあります。
子宮頸管から分泌される頸管粘液の量や性状が適切でない、頸管の内腔が細い場合には、精子が進みにくく、不妊の原因になることがあります。
排卵期の頸管粘液の分泌量が少ない、性状がよくない時には、精子の動きが障害されます。
⇒頸管粘液を増やすためのホルモン療法を行います。合わせて、精子が子宮頸管を通らず、直接子宮に入れるように、人工授精を行います。
頸管が細い、クラミジア感染症や腟炎などの炎症があると、精子の通過障害の原因になります。
⇒頸管狭窄では、人工授精で精子を直接子宮に入れてやります。頸管炎は抗生物質で治療します。クラミジア感染症はクラミジアを殺す抗菌剤で治療します。
女性の血液内に夫の精子を不動化する抗体があると、精子の運動が障害されて不妊の原因になります。
⇒人工授精または体外受精を行います。抗精子抗体は子宮頸管だけでなく、子宮腔や卵管にも存在します。このため、人工授精による妊娠が難しい場合も多く、検査結果によっては治療の最初から体外受精を行うことが多くなっています。
●男性側の主な不妊原因
・造精機能障害 ・精索静脈瘤 ・性交障害(ED) ・射精障害
造精機能障害は、一定数以上の精子を作る力、形の正常な精子や活動性の高い精子を作る力が低いことをいいます。男性不妊の原因のほとんどは、造精機能障害による精液異常です。
精索静脈瘤が原因のケースは少なく、多くは現段階では原因がわかっていません。
⇒軽度の場合は人工授精が第一選択肢です。程度が高い場合は、精子数が少なくても妊娠が期待できる顕微授精を行います。
精索静脈は、精巣を包む陰嚢にある血管で、精索静脈瘤は、何らかの原因でこの血管が詰まり、瘤(こぶ)ができた状態をいいます。精巣は精子を作るところです。精索静脈瘤があると、血行障害や陰嚢の温度が上がるため、精液異常の原因になります。
⇒泌尿器科で詳しい検査を行い、必要な場合には手術を行います。
EDは男性性器の勃起不全によって性交ができないことをいい、不妊の原因になります。EDの原因には疲労やストレス、心理的な原因による心因性のEDなどがあります。
⇒疲労やストレスによる一過性のEDではバイアグラを用いることがあります。心因性の場合には心療内科などのカウンセリングで改善することがあります。
怪我などで脊椎が損傷されると、射精障害の原因になります。精液が膀胱のほうに逆行してしまう逆行性射精が原因のケースもあります。
⇒脊椎損傷が原因の場合にはバイアグラでEDが改善する場合があります。逆行性射精では、膀胱内から精子を回収して人工授精または顕微授精を行います。