院長 西山幸江(生殖医療専門医・臨床遺伝専門医)
名誉院長 西山幸男(生殖医療専門医)

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クリニック便り

2015年冬号

テーマ 男性不妊-精索静脈瘤について-

はじめに

不妊原因の約半数は男性側にあるといわれています。最近は男性不妊についての理解が深まり、当院を訪れる方のほとんどはご夫婦で受診され、男性不妊の必須検査である精液検査を受けておられます。
当院では精液検査の結果、泌尿器科での詳しい検査が必要な場合には、積極的に連携医療機関へのご紹介を行っています。
男性側に原因があるとわかった場合、精索静脈瘤であれば外科的手術、あるいは閉塞性無精子症の場合はTESE(精巣精子回収術)と顕微授精を組み合わせるなど、泌尿器科と密接な連携のもとに治療を行い、赤ちゃんを授かるご夫婦は少なくありません。
今号では、乏精子症の主な原因である精索静脈瘤についてお話しさせていただきます。

男性不妊と精索静脈瘤
精索静脈瘤は男性不妊の重要な原因になります

精索静脈瘤は精子を作るという重要な働きをもつ精巣に起こるトラブルです。本来は精巣から腎臓静脈へと流れる血液が逆流してしまい、精索静脈がコブのようにふくれ、血液の流れが滞ります。また、陰嚢内の温度は造精機能に適した34~35度に保たれていますが、精索静脈瘤があると37度以上の高温になり、精子を作る力が低下します。さらに、血行障害によって精巣内が低酸素状態になることも、精子が作られにくい原因となると考えられています。
このように、精索静脈瘤は精子の数が少なく、精子の運動性が低下する乏精子症につながるため、男性不妊の原因になることがあります。また、精子の質が低下して受精率が低くなるだけでなく、着床率の低下や流産率の上昇につながる心配があるともいわれています。さらに精索静脈瘤のある男性の場合、活性酸素のバランスが崩れて酸化ストレスが高くなり、精子のDNAが損傷されるリスクが高まるともいわれています。

乏精子症の約40%は精索静脈瘤が原因といわれています

精索静脈瘤は一般的に男性の10~20%にみられるといわれています。精索静脈瘤のある男性のすべてが乏精子症になるわけではありませんが、乏精子症の約40%、とくに続発性不妊の70~80%は精索静脈瘤が原因といわれています。続発性不妊は二人目不妊とも呼ばれ、一人目の妊娠・出産後、二人目がなかなか妊娠できない状態をいいます。精索静脈瘤ができると症状が徐々に進行します。造精機能が障害されていない早期では妊娠に結びつきますが、その後、時間が経過するとともに精子を作る力が低下して、二人目不妊の原因につながることがあるわけです。
精索静脈瘤が不妊原因になると知らないご夫婦もおられることでしょう。また、一人お子さんが授かったご夫婦は、まさかご主人に精索静脈瘤があるとは考えたこともないという方もおられます。
最近は男女ともに結婚年齢が高くなっています。もし精索静脈瘤がある場合、早期発見と早目の不妊治療が必要と知っていただきたいと思います。

精索静脈瘤と酸化ストレスについて
酸化ストレスは「酸化」と「抗酸化」のバランスのことです

私たちの体は活性酸素に変化した酸素の恩恵をいっぱい受けていますが、さまざまな要因で活性酸素が過剰になると、細胞を酸化させて老化を促すなどの害を受けることがあります。しかし、私たちには過剰な活性酸素から体を守る力も備わっています。抗酸化力です。
体内では「酸化」と「抗酸化」がせめぎあっているわけですが、このバランスの度合いを酸化ストレスといいます。酸化ストレスが低ければ細胞は活性化します。しかし、酸化ストレスが高ければ、細胞の老化が進みます。
さまざまなデータから、精索静脈瘤があると精巣内の酸化ストレスが高くなることがわかってきました。たとえば高温環境です。精巣がいつも高温にさらされることで、精子形成率が低くなるだけでなく精子の質も低下するといわれています。
なお、精索静脈瘤の外科的手術後に、精巣内の酸化ストレスが低下したという報告は多数あります。ほかにも、ビタミンCやビタミンEなどの抗酸化作用のあるビタミン剤を用いる方法などが試されています。効果があるとする報告もありますが、まだ報告例が少なく判断は慎重にすべきという意見もあります。

自己チェックが役立つことがあります
気になる時は医師に相談してください

精索静脈瘤が必ず男性不妊につながるわけではありませんが、もし精索静脈瘤がある場合には、早目に泌尿器科の検査を受けるに越したことはありません。精巣を包む陰嚢は幸いなことに、見たり触ったりすることができます。ご主人にご自身で観察するよう勧めてみるのもいいでしょう。
精索静脈瘤は左右の精巣に同時に起こることはなく、ほとんどは左側に発生します。このため、精巣や陰嚢に左右差が生まれるのが大きな特徴です。
たとえば、左右の精巣を触ると、左の精巣は萎縮して右の精巣より小さく感じられます。一方、左の陰嚢はいつも伸びていて、右の陰嚢より大きく見えます。また、目で見て、血管がこぶ状になっているのがわかることがあります。たとえば、陰嚢の中に数珠玉のようなこぶがあるように見えたり、うどんに似た太いものがあるように見えたりします。
お風呂あがりなどに精巣と陰嚢を目で観察し、触ってみるなどして思い当たることがありましたら、早目に泌尿器科医に相談しましょう。

精索静脈瘤の治療について
外科的手術も選択肢のひとつです

当院では、患者様からご相談があった場合には、泌尿器科の受診をお勧めしています。精索静脈瘤は主に触診と超音波検査で診断がつきます。治療は精索静脈瘤の程度にもよりますが、結紮術(けっさつ術)といって、血管を縛って静脈血が精巣に逆流しないようにする手術を行います。最近は、治療成績のよい顕微鏡下低位結紮術が行われるようになっています。この手術は、顕微鏡下で、精巣に近い位置で血管を縛り、血液の逆流を止める方法です。
術後は不妊治療による妊娠率が高くなるとも報告されています。但し、術後に精液の状態が改善されるまでには、早くても半年はかかります。このため、とくに年齢の高いご夫婦の場合には、1日も早く妊娠に結びつくように、人工授精や顕微授精を優先させることがあります。

酸化ストレスを軽減する工夫をしましょう
食生活に注意しましょう

不妊治療中の患者様にとって、精子や卵子の老化につながり、受精能も低下させる酸化ストレスは天敵です。酸化ストレスを軽減する生活法にチャレンジしてみましょう。実は、適度な運動はいいのですが過度の運動は酸化ストレスを高めるという具合に、なかなかに難しいのですが、厚生労働省のe-ヘルスネットを参考に紹介させていただきます。
食生活では、酸化された食べ物(スナック菓子や揚げ物、調理から時間のたった食べ物など)を避けましょう。調理に油を使う時は、オリーブオイルなど酸化しにくい油を選びましょう。

抗酸化作用の強い成分を含む食品を

強い抗酸化作用をもつのがカロテノイドです。カロテノイドは動植物に含まれる赤や黄色の色素成分で、β-カロテン、リコピン、ルテイン、アスタキサンチンなどがあります。
カロテノイドを多く含む食品には緑黄色野菜、マンゴー・パパイヤ・柿・あんず・柑橘類・すいかなどの果物のほか、とうもろこし、赤唐辛子、わかめやひじきなど海藻類、えび・かになどの甲殻類、いくら、卵黄などがあります。

喫煙は厳禁です

体内で活性酸素が多く発生すると、酸化ストレスは高まります。タバコは活性酸素を大量に発生させる元凶! ご主人が喫煙している場合は、すぐに禁煙してもらいましょう。禁煙外来のある医療機関も多く、条件次第で健康保険も使えます。また、最近はニコチンを含まない新しい禁煙用内服薬も登場しています。


精巣を守るために大事な日常生活の注意

精巣の働きを守るには高温環境を避けること、血液の流れをよくすることが大切です。日常生活でも注意しましょう。

○高温のサウナや長風呂は避けましょう

サウナは直接、精巣を高温にさらすことにつながります。高温のサウナは厳禁! 長時間の入浴も避けたほうがいいでしょう。

○締め付けタイプの下着やジーンズは避けましょう

精巣を強く締め付けるぴったりした下着やジーンズは避けましょう。とくに終日身に着ける下着は、トランクスよりもゆとりがあり、風通しもよいブリーフのほうがいいでしょう。

○自転車に長時間乗る習慣は控えましょう

スポーツや通勤などで自転車に長時間乗る習慣も要注意です。サドルで長時間圧迫されると、精巣周辺の血行が悪くなる心配があります。


次号のご案内
   

今号のテーマは、第37回日本不妊カウンセリング学会養成講座にて、白石晃司先生(山口大学医学部附属病院泌尿器科/講師)の講演内容に触発されてのことです。とくに酸化ストレスの視点から精索静脈瘤をお話しいただいたのが、とても新鮮でした。活性酸素、フリーラジカル、酸化ストレスなどの単語はネット空間にあふれ、サプリメントも多数、販売されていますが、患者様におかれましては安易に利用することなく、ご相談いただければと思います。


平成27年も残りわずかです。冬の始まりは暖冬とのことでしたが、北国からは雪の便りが届いております。患者様におかれましては体調にご留意いただきたいと思います。
私たちスタッフ一同、心を引き締め、新しい年に向けて更なる努力を重ねて参ります。
どうぞ、よろしくお願い申しあげます。

院 長 西山幸男
副院長 西山幸江
不妊カウンセラー 西山純江
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